キャストの作り方(応用編)

  これまで数々のキャストやゲストを作ってきて、ちょっとだけお勧めなキャラクターデータの作り方というのがあるので、紹介させてください。
もちろんこんな手間をかけずとも素敵なキャストを作り上げることは可能だと思います。けれども、長い経験などから少しでも誰かの役に立つならという多少の余計なお世話的な感覚も含めて、気が向いたら読んでいただければ幸いです。


 これは、まあ手間はかかるけど簡単な方法です。

 やり方はいたってシンプル。
 キャストを高い経験点にまで成長させてしまうのです。作りたてのキャストに……そうですね、最低でも50点、できれば100点くらいがちょうど良いでしょうか。必要ならそれ以上でもいいかもしれません。
 もちろん実際の経験点を支払わなければこんなキャストは使えませんよね。(RLが許可すれば別ですが(苦笑))では、なぜこんなことをするのかというと、それだけの経験点があれば生み出したキャストに対して自分が抱いているキャラクターイメージを概ね網羅し、再現できると考えるからです。
 せっかくイメージを固めて作ったキャストでも、よほどの経験が蓄積されていない限りイメージすべてを再現でき得る経験点を持っているということはないでしょうし、仮にあったとしてもすべてを一度につぎ込むにはそれなりの覚悟がいります。できたてのキャストが必ず成功するとは限らないですからね。
 そこで『試し』の仮経験点をつぎ込むことで、まずはそのイメージの再現を優先してみようというわけです。

 おそらく100点くらいの経験点があればキャラクターイメージの再現は可能かと思います。特技・技能の高レベル化、能力値の上昇、業物(高経験点アウトフィット)の取得、ブランチの獲得、あるいは全身義体を使ってみることだって、それなりに可能でしょう。さらに、際限なく経験点をつぎ込めば、それらを複合的に組み合わせることさえ可能となるはずです。そうやって作り上げたキャストは、イメージに限りなく近くなっていることでしょう。
 いっそ、そのまま使えたらとても楽しいのかもしれません。
 でも、残念なことにそこに使われた経験点は仮のもの。せっかく作ったこの高経験点キャストは基本的に扱うことが許されません。では、使うことを諦めるしかないのでしょうか。

 もちろん、ただ落胆するためだけに夢の高経験点キャストを作るわけではありません。ここからさらにキャストを絞り込むという作業が必要になるわけです。そして、それこそがキャスト作りにおいてもっとも大切なことであると思うのです。

 改めて目の間にあるプロファイル(キャラクターシート)を眺めてみてください。
経験点などの制限を一切なしに、あなたの思うがままに作り上げたキャストがそこにいるはずですよね。でも、このプロファイル、果たして本当にあなたにとって魅力的なキャラクターに仕上がっているでしょうか?
 当然そうなっていますよね。そのために制限なしでキャストを作り上げたわけですから。でも、本当にそうでしょうか。そこにあるキャスト、違和感はありませんか?
不思議なもので、人間なんの制約もなしに『何でもできる』となるとかえって困ってしまうものです。なんでもできる、という言葉はむしろ私たちを惑わせるだけに終わってしまう、なんてことないでしょうか。
 経験点を無尽蔵に使えるから、といって際限なく強くした時、そこにあるのはいくつもの思い入れやコンセプトをない交ぜに込めた非常に複合的なキャラクターになっていませんか?そして、その結果として本来キャラクターとしてまとめ上げるべき、大切な、あるいは本質的なコンセプトを見失っていませんでしょうか。

 テーブルトークを単なるシュミレーションゲームの延長として考えた場合、あらゆる敵対者に対して絶対的な能力をもって他者を凌駕し、圧倒的な勝利を得るというのは、ある種の快感であり、そして間違った選択ではないでしょう。勝利を目指すことはゲームとしての本質から外れた選択ではありえません。
 しかしことテーブルトークに関しては、それだけに収まらないものがあると思うのです。それはとりもなさずTRPGが物語るという行為にも優れた遊びだからです。そして、その観点から考えた時、あなたの目の前にある絶対的なキャラクターは果たしてどれだけの存在価値をあなたに与えてくれるでしょうか。
 あらゆる物語において主人公たちは『ただ強い』だけではありません。どれほど最強と呼ばれている存在として描かれていても、その前にはそれを凌駕する困難が(戦闘能力に限りませんが)待ち受けています。そして、それを乗り越える過程こそが物語といっても、そう過言ということはないでしょう。それはTRPGにおいても変わりません。
 どれほど多くの経験点を支払い、強力なキャストを作ろうとも、その前にはそれを超える存在が現れ、あなたの前に困難として立ちふさがるでしょう。現れたすべての存在を瞬時に打ち倒してしまっては面白いはずはありません。オープニングにラスボスを倒してアクトが終わってしまっては話にならないですよね。
 だから実はどれほどたくさんの経験点をつぎ込んでキャストをつぎ込んだとしても、物語という枠組みの中ではさほど大きな意味を持つわけではありません。高い経験点のキャストに相応のゲストを登場させれば良いだけの話なのです。むしろ一つの行為の結果が大きく左右してしまう分、大変なのかもしれませんね。

 では、何のために手間隙をかけて高い経験点をつぎ込んだのでしょうか。それは、『強さ』とは価値の違う意義を与えるため、わかりやすく言い換えるなら『表現力』を広げるためなのです。
 表現力、つまりはあなたのキャストをどのように魅せたいのかということです。
あくまで個人的な考え方ではありますが、トーキョーN◎VAにおいてキャストの強さはキャストを表現する手段の一つなのだと思います。より大切なのはアクトという物語においてどのような立場で、どのように物語に関わり、どのように活躍するのか。経験点とは、その幅を広げるための手段の一つなのだと思うのです。
 つまり、先ほど作り上げた高経験点によって表現されているのは、あなたのキャストをどのように表現したいのか、ということなのだと言い換えることもできるでしょう。
 戦闘における強さに特化したのであれば、戦闘シーンが活躍の場となります。情報収集に特化すれば、ハードボイルドな活躍を約束されるでしょう。それがヴィークルの扱いやアストラル、ウェブにおいてであっても同じことです。どのように活躍したいのか。それこそが経験点によって表されるプレイヤーの嗜好と言ってもいいでしょう。
 あなたのキャストはどのようなことを目指して作られているでしょうか。

 ここで問題となるのが、先ほど作って成長させたキャストの能力、データです。申し上げたとおり、たくさんの経験点を消費して作り上げたキャストはさまざまに強化された能力を持っているでしょう。しかし、同時になまじ際限なく強化できるがゆえに、その焦点をおぼろげにしてしまう可能性はないでしょうか。
 戦闘はもちろん強い、情報収集も得意、何をやらせても完璧にこなせます。そんなキャストになってしまうということは往々にあります。しかし、なんでもできるということが必ずしも正しくないというのはすでに述べたとおりです。重要なのは、そのキャストが何を表現したいのかということをはっきりさせることなのです。必要以上の能力は、自らのキャストを曖昧なものにしてしまうばかりか、時には他のキャストの活躍の場さえ奪ってしまうことにもなりかねません。たったひとりで遊んでいるならともかく、そうでないのならば役割は分担してなんら問題ないはずです。
 さらに言い切ってしまうなら、トーキョーN◎VAにおいては、例え1000点の経験点をつぎ込んだキャストであっても、それが防御能力を持った神業がなければ0経験点のカタナやカブトワリの前に敗北を喫してしまうのです。そのこともまた、N◎VAにおける経験点の価値を、単なる能力の強化だけにする意味のアンチテーゼとしています。

 ですから、大切なのは多くの経験点をつぎ込んだキャストをもう一度俯瞰し、その中で何がもっとも大切なのか。もっともキャストらしく、自分がそう表現したいと感じるものなのかという点を考えることです。(できるなら、それをどう他人に魅せるのかということも意識できるならなお良い結果を生み出すのだと思います。)
 そのために、データを見直し、もっとも大切な部分を際立たせてください。同時に経験点を可能な限り削っていきましょう。いくつも欲張る必要などありません。欲張りたくなることに我慢し、精一杯スリムに仕上げたキャストは必ず魅力的なものに仕上がっていることでしょう。それができたとき、要求される経験点は決して多くないはずです。それなら仮に経験点が0であっても、作れないことはないはずです。よしんば足らないということがあっても、さほど無理のない程度の経験点で収まるはずです。すぐに支払うことも可能かもしれませんし、無理だとしてもそのキャストで活躍し、得た経験点を持って目指す姿を少しずつ再現していけば良いのです。使いどころさえわかっていれば、的外れに無駄な経験点の消耗は避けられるはずですからね。
 それでも経験点が足りないのなら、それはまだ削りどころが必ずあります。削って削って、それでも捨てきれないもの。それこそがあなたのキャストに望むもっとも大切なイメージとなっているでしょうから。

 大切なのは何を表現したいのか、というイメージをしっかりと形作ることです。
一人のキャストで何もかもを表現しようとするのではなく、表現したいことを抽出し、それを明確にすることで、自分と遊ぶ仲間との間にキャストを印象付けること。 それができたならあなたのキャストはきっと素敵な存在へと仕上がっていることだと思います。